大学や公的研究機関の研究成果を成功裡に産業に移転・商業化することはイノベーション促進、ひいてはマクロレベルの経済成長の重要な原動力であり、学術的、政策的に注目されている.本研究では、日本企業の特許データ、大学で行われる科研費データなどから構築された地域イノベーションパネル(1983-1996)を用いて、大学知が産業のイノベーションに与える影響、大学知の波及効果の地理的範囲、大学知が産業に波及する径路について分析を行った。五つの技術分野における推計結果から、大学知が産業のイノベーションに与える影響は技術分野に応じて異なること、医薬の分野では大学研究の波及効果はローカライズされていること、大学と企業との共同研究は大学知の波及経路として有効でないことが明らかとなった。さらに、本研究では、地方自治体によって運営される公設試験研究機関が中小企業の重要な知識源泉として機能しているかどうかを検証した。地域中小企業の研究開発能力、地域の大学が中小企業と行う産学連携(共同研究)の活性度によって地域イノベーションシステムの特性を指標化し、それと公設試が展開する技術指導などの技術サービスメニューとの統計的関係を検証した結果、両者はうまくフィットしておらず、地域中小企業が必要とする技術サービスが十分に展開されない一方、不要な技術サービスが提供されている可能性が示唆された。これらの実証分析から、大学や公設試験研究機関の研究、技術支援活動を、地域のイノベーションに活用するための政策的含意が引き出された。
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