研究概要 |
本研究では,医療支出と人口の高齢化をめぐるミクロ実証分析で近年注目されているRed Herring仮説について,OECD加盟25カ国を対象としたマクロ・パネルデータを構築し分析を行った.高齢化が医療支出を増加させるとの一般的な言説は,ミクロデータの下で死期を考慮した分析では必ずしも妥当しないことが知られている.加えて,マクロデータの下でもそうした言説が妥当ではないという分析結果が散見される.したがって,先行研究からは,ミクロの観点においてもマクロの観点においても,医療費高騰の背景にある高齢化主因説はRed Herringな言説と判定される. 医療政策を考えていく上で非常に重要なこの論点に関して,本研究は多様な社会経済変数を考慮した分析となっている.研究成果は現時点で次の二本の論文に集約される.(1)「医療支出と高齢化に関するRed Herring仮説の検討-マクロデータによるアプローチ」(『東北学院大学経済学論集』第174号に掲載),(2)"Reconsidering the 'red herring hypothesis' concerning aging and health expenditure"(投稿中). 研究結果を総合すると,医療支出に対して影響力のある要因リストのなかに,人口の高齢化も含まれることが判明した.よって,少なくとも今回のマクロ実証研究の範囲では,多くの先行研究(特にミクロ実証分析)で示唆されるRed Herring仮説は妥当性を持たないと考えられる.こうした結果をふまえると,医療支出と高齢化の関係性については,今後も継続的な観察と分析が必要である. なお,本研究と密接に関係する論文として"Roles of educational and health human capital accumulation in economic growth"も執筆した(投稿中).
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