日本の労働市場の賃金および雇用の調整メカニズムを明らかにするため、本年度は、労働市場の調整機能全般についての概念整理を行いつつ、景気循環に応じて労働供給行動がどのように変化するのか、労働需要制約に労働供給がどのように反応するのか、法制度によって賃金や労働時間の調整がどの程度の制約を受けるのか、といったテーマを絞った研究を実施した。具体的には、労働者のパネルデータを用いた労働供給関数の推定を通じて、不況期に職探しを諦めて非労働力化する就業意欲喪失効果がどのような労働者に顕著にみられるかを検証した。その結果、女性では1990年代に就業意欲喪失効果が減退したことや、効果減退の要因としては晩婚化・晩産化が大きいこと、未婚者でも就業意欲喪失効果がみられるが、それは自ら自発的に非正規就業を選択している労働者のみに顕著で、不本意に非正規就業している労働者には効果はみられないことなどが明らかになった。これらの結果は、近年日本の労働市場で問題になっている非正規雇用問題や少子化問題に対する含意を有する。このほか、労働時間規制が労働時間や賃金に与える影響についても労働者のパネルデータを用いて検証し、同一の仕事内容であれば、規制適用の有無に応じて時間当たり賃金が伸縮的に調整されることを明らかにした。この結果は、ホワイトカラーエグゼンプションなどの労働者の働き方に関する制度設計に関する議論の基礎を提供するものである。
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