まず昨年度まで進めてきた、新薬の共同開発の成否をプロジェクトレベルのデータで探る研究に関しては、英語の論文にまとめて産業組織論の国際学術雑誌に投稿し、そのレフェリーレポートを受け取ったところである。現在その指摘を吟味し、修正の方向を検討している。 それに加えて今年度は、医薬品産業において競争のあり方を左右する主因の一つである、薬価制度と新薬開発の関連を探る分析に着手している。日本においては薬剤の価格は薬価制度によって統制されており、このあり方によって新薬開発から得られる利益の大きさが異なってくる。また、現行の薬価制度においては、特定の薬剤のみについて競争相手となる薬剤に比べてより大きく薬価を引き下げたり、逆に薬価を少し高めに設定する場合がある。例えば、売上の大きな新薬と、その類似薬に限って薬価をより引き下げようとする市場拡大再算定や、市場実勢価格が薬価から大きく乖離しない新薬に限って薬価をより引き上げる新薬創出・適応外薬解消等促進加算などが該当する。 こうした制度は、ある特定のイノベーションを阻害すると批判され、あるいは活性化することが期待されるものである。そこで、これらの薬価制度がどれほどイノベーションのインセンティブに影響するかを、医薬品産業のミクロデータを用いて分析する試みを進めている。現在までに、まずイノベーションのインセンティブに大きく影響することが議論されている薬価制度の詳細について文献調査を進め、いくつか特定の疾病領域を選定し、その市場を表現するモデルを構築するのに必要なデータセットを収集した。このデータに基づいて予備的な分析を行ったところ、最近の薬価制度の変更は、1つの新薬を開発するのに要する費用に匹敵するだけの、薬剤売上高の変化をもたらしうることが示唆されている。
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