本年度は、2008年度および2009年度に行った一連のインターネット上での「配分ゲーム」実験結の果について総合的な分析を行い、論文"Conform or Non-conform : Observational Learning and Social Preference"の執筆・改訂を行った。分析結果によると、被験者の社会的選好は観察的学習に有意に影響を受けていることが一貫して確認された。具体的には、(1)他人の社会的選好の観察的学習が可能な場合、被験者の社会的選好は他人の社会的選好に非同調するよりも同調する傾向が強い、(2)観察的学習によって、日本実験の被験者は他人の行動に向社会的に同調し、中国実験の被験者は他人の行動に利己的に同調したが、米国実験の被験者については社会的選好の変化は認められなかった。しかし、(3)全実験における観察的学習の内容の差異を適切に調整すると、向社会的に同調する確率は利己的に同調する確率よりも高いことが確認された。こうした結果は「他人」の物理的な存在がない状況で確認されたものであり、人間の向社会性は、他人の社会的選好を意識し、他人の行動の意図を読み取ることによって促進させられるものと解釈することができる。加えて本年度は、こうしたインターネット上での実験結果の妥当性を検証するために、名古屋商科大学において、被験者延べ379名を対象にして「配分ゲーム」の実験室実験を計3回実施した。実験結果は、概ねインターネット上での実験結果と整合的であり、上記の結論は頑健であることが検証された。
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