本研究では、少子高齢化社会における政府の政策効果について分析を行っている。今年度の研究では、(1) 少子化対策としての児童手当政策が、家計の出生率を上昇させうるかどうかについて理論モデルを作成し、検証した。先行研究では、実社会で行なわれているような子供の数に応じて児童手当を給付する政策は、子育て世代に子供を増やすインセンティブを与え、出生率上昇に寄与する結果となっている。本研究では、逼迫する社会保障費をモデルに反映させ、年金財源の一部を削って少子化対策に充てた場合、高齢化が進んだ経済では逆に出生率を抑制する結果となることを示した。これは、将来もらえる年金が減らされる場合には、自分の老後に備えて、子育て時間よりも労働時間に充てようとするインセンティブが働くためだと説明できる。これは、少子化と高齢化の両方に直面し、社会保障財源の不足する日本の経済において、年金制度の充実による将来不安の軽減が労働世代の出生率決定にも影響を与える可能性を指摘した意味で示唆に富む結果であるといえる。(2) 家計の余暇活動に対して「レジャー消費」をモデル化し、政府が行なうレジャー振興政策の効果について検証した。健康増進などの目的で、退職後の引退期におけるレジャー活動に対して政府が補助金を給付する制度を導入すると、家計の人的資本蓄積にプラスの影響を与え、経済成長を促進しうる可能性を示した。これは、世界でも類の見ない早さで進む人口の高齢化と、団塊世代の大量退職に代表される引退家計数の増加に対して政府が行ないうる経済政策の一つとして意義のある政策提言であると思われる。
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