研究概要 |
本研究は,地域政策の評価分析のための経済地理モデルの構築を目的としているが,第三年度である平成22年度は地域経済と国際経済の統合モデルの構築,実証分析と地域政策の検討を中心に行い,以下を明らかにした. 1.資本・企業の国際間移動を明示的に考慮したモデルを構築し,その性質を明らかにした.具体的には,(1)新貿易理論において提示されてきた「自国市場効果」が常に見られること,(2)貿易の自由化は企業を一旦大国に集積させるがその後分散させる逆U字プロセスととること,(3)小国にとっては工業部門の貿易自由化は脅威ではなく,むしろ農業部門の貿易自由化が脅威となること,を理論的に明らかにした. 2.従来の労働・資本の2要素モデルを拡張し,自然資源を加えた3要素モデルを構築し,以下の結果を得た.(1)工業財の輸送費用が高い場合は,自然資源に恵まれた国に多くの企業が立地し,他国より高い厚生が得られる.しかし,工業財の輸送費用が低くなると,企業は他国に多く立地するようになり,いわゆる'資源の呪縛'が生じる.(2)その'資源の呪縛'は,資源財が最終財としてのみ利用される場合により深刻になる.(3)自然資源に乏しい国は貿易自由化政策を進める傾向が強く,これは現実と整合的な結果である. 3.実証研究としては,都市の空間構造と商業・サービス業生産額分布の関係を示す構造方程式を導出し,その推定を行い,理論の妥当性を示すことができた.また地域政策評価への応用研究としては,これまで構築してきたモデルに温暖化ガス排出権取引を導入したモデルを構築し,排出権取引やカーボン・オフセット・プログラムといった環境政策を評価するフレーム作りを行った. 以上の内容は,これまでの新経済地理・空間経済学の研究において,明らかにされていなかった,あるいは取り組まれてこなかったものであり,都市・地域政策において重要な意義を持つと考えることができる.
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