日本における規制改革の議論は、先行する欧米諸国における経験、あるいは理論的・実証的な研究に依拠する場合が多く、それらが日本の経済構造や市場構造にも応用可能であるかどうかについては検討の余地がある。とりわけ日本の公益事業については、これまで需要は価格には反応しない、すなわち需要の価格弾力性はゼロまたは極めて小さいという先験的な仮定が定着し、市場構造に関する学術的な分析がほとんど行なわれてこなかった。 本研究は、電気・水道・ガスなどの日本の代表的な公益事業について、日本特有の経済構造やその地域間差異を考慮しながら、市場構造を表すパラメータを計量経済学的な手法により導出することを試みるものであり、それにより規制改革の運用方法や自由化・規制緩和の範囲などを具体的に考察するシミュレーション分析において必要不可欠な基礎的データを提供することを目的としている。 初年度である平成20年度は、主にガス事業に関する統計データを収集した。それらを入力・加工する過程でかなりの異常値が見られたので、これらの数値が誤植であるかどうかの確認作業を行ない、データを修正したうえで弾力性などの推定作業を行なうことが今後の課題である。 また、ガスや水道に対する比較対象として用いる電力市場について最新のデータを用いて推定した結果、その需要の価格弾力性は、全国平均(電力販売量による加重平均)は、短期が0.157、長期が0.264であるが、地域別には、短期が0.086(東京)〜0.297(四国)、長期が0.120(関西)〜0.564(北海道)とかなりの差異があることが示された。
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