日本における規制改革の議論は、先行する欧米諸国における経験、あるいは理論的・実証的な研究に依拠する場合が多く、それらが日本の経済構造や市場構造にも応用可能であるかどうかについては検討の余地がある。とりわけ日本の公益事業については、これまで需要は価格には反応しない、すなわち需要の価格弾力性はゼロまたは極めて小さいという先験的な仮定が定着し、市場構造に関する学術的な分析がほとんど行なわれてこなかった。 本研究は、電気・ガスなどの日本の代表的な公益事業について、日本特有の経済構造やその地域間差異を考慮しながら、市場構造を表すパラメータを計量経済学的な手法により導出することを試みるものであり、それにより規制改革の運用方法や自由化・規制緩和の範囲などを具体的に考察するシミュレーション分析において必要不可欠な基礎的データを提供することを目的としている。 今年度は、主にガス事業について、これまでに収集した統計データを点検・修正しながら、それを用いて弾力性などの推定を行なった。ガス事業は、電力事業と違い数社の大規模事業者だけでなく数多くの中小・零細事業者が存在し、その営業地域も細分化されているため、個別の事業者ごとにその需要を推定することは困難である。そこで、本研究では電力事業者の営業区分をもとに9地域に集計したうえで推定を試みた。それによるとガス需要の価格弾力性は0.11(東北)~0.77(中国)で、電力に比べて地域的な差異が大きいとの推定結果が得られた。これは、電力では主に家庭用の電灯と主に産業用の電力が分けられているのに対して、今回使用したデータでは、そうした分類がなされていないためである思われる。また、推定自体も大いに改良の余地が残されており、そうした問題に対処していくのが今後の課題である。
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