研究概要 |
平成21年度は,期待インフレ率の測定方法に関する理論・実証分析を行ってきた.1点目として,2004年から内閣府が始めた期待インフレに関するデータを用いて,期待インフレが実際にどのような分布をしているかの研究を行った.期待インフレにおいて,歪度,尖度を考慮に入れないことは重要な情報の見落としであることを発見した.こうして得た期待インフレ率の特徴として,正の方向の偏りと,効率性が完全ではないことが分かる一方,既存の方法で推定した期待インフレ率よりは経済理論上望ましい性質を有していることが分かった.この成果は"Estimating the distribution of inflation expectations"としてまとめ,大阪府立大学セミナーで発表し,海外査読誌Economics Bulletinに掲載された.2点目として,期待インフレ率と密接な関わりのある労働市場の特性と技術進歩に関する理論研究を行った.プロセス・イノベーションの結果,組合が限定的に存在する場合は労働者の再配分を促進し,英米や日本でのdeunionizationの過程とも整合的であることを発見した論文である.この成果は,"Process Innovations and Reallocation of Labour: The Case in which A Labour Union Promotes Productivity"と題され,国内誌・駒沢大学経済学論集に掲載された.3点目として,インフレ期待測定の際に仮定した分布と実際のインフレ期待の分布が異なる場合の計測誤差について,研究を行った.この成果は"Measurement Error in Estimating Inflation Expectations from Survey Data"としてまとめられ,海外査読誌に掲載が決定されている.
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