研究概要 |
平成22年度は,期待インフレ率を織り込んだ物価指標の理論・実証研究を行ってきた.平成21年度までに,内閣府等の政府公表の期待インフレに関するデータの扱いについての理論的・実証的な問題点と応用方法の研究成果を挙げたので,これらの研究を進めたものである.現在政府が公表している物価指数は,その時点における様々な財の価格をまとめたものであるが,物価指数の重要な機能である「生活の質」の把握については,1時点ではなく将来に向けてどのように財を購入するかという動学的視点が欠かせない.そのため,身近な「将来に向けて」どのような展望を示すかの指標である期待インフレ率を織り込み,物価指標のリファインを行った.こうした研究成果は現在論文として執筆中であり,早い段階で学会報告,査読付き専門雑誌への投稿を予定している. また,インフレ期待測定の際に仮定した分布と実際のインフレ期待の分布が異なる場合の計測誤差を研究した論文"Measurement Error in Estimating Inflation Expectations from Survey Data"について,海外査読誌に掲載されたCarlson and Parkin(1975)の開発した手法についてシミュレーションによって計測誤差を示したもので,サーベイ・データからインフレ期待を数値で把握する場合,1.単純な回答割合の差し引きで作成する指標の誤差は大きい,2.実際のインフレ期待が大きい場合,作成される指標の誤差は大きい,3.誤差は回答者数の増加で目立って減少する,4.回答選択肢の増加は,誤差の改善にそれほど変化をもたらさない,という結果を得た.1は分析がerrors in variableとなる可能性,2は通常の場合はCarlson and Parkin法で差し支えがないこと,3・4はサーベイ・データの設計への参考,など重要な研究・政策への含意を得た研究である.
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