研究概要 |
今年度は長寿化が年金財政に与える影響を,一般均衡理論的見地からみて整合的な経済想定を織り込んだシミュレーション分析を行い公表した. 長寿化の進展は,出生率の低下と並んで,人口構造の高齢化の主要因であるが,年金財政に影響を与える要因としては,出生率ほどには世論の関心を集めてこなかった.この分析では,長寿化について複数の想定をもつ2006年人口推計を用いて,長寿化が年金財政に与える影響を定量的に評価するとともに,給付開始年齢の引き上げによって,どの程度の年金財政の持続可能性の改善が見込まれるか分析した.この結果,給付開始年齢の引き上げは年金財政に相当程度の改善をもたらすことが明らかになり,今後積極的に検討されるべきとの結論を得たが,同時に,高齢者が,これまで以上に活力を維持しながら働ける労働市場と社会保障制度の基盤整備が望まれる. また,分析では,長寿化を通した人口構造の変化がマクロ経済に与える影響を織り込んだ年金財政シミュレーション分析を行う為に,年金数理モデルとライフサイクル一般均衡モデルを併用した年金財政シミュレーションを行った.年金数鍾モデルとライフサイクル一般均衡モデルを併用することで,長寿化が賃金率・利子率に与える影響を,一般均衡理論の観点からみて整合的に織り込みつつ,年金財政推計における経済前提のあり方に関する検討が可能となった.年金財政の推計は,おおよそ100年という超長期のタームを対象としているが故に,高齢化とライフサイクルというダイナミックなマクロ変動のリスクをより考慮する必要性があるといえる.政府・厚生労働省の年金推計は,どめような人口想定を用いた場合でも,一定の経済前提を使用しているが,ここに,意図せざる前提の甘さが入り込む余地があることを本分析の分析結果は示している.
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