今年度は、少子化と長寿化が年金財政に与える影響を、一般均衡論的見地から見て整合性のとれた前提に基づく年金財政シミュレーション分析で評価する論文について、前年度からの研究の継続として改訂を続け、長寿化と年金財政に関する論文については、東大出版会からの研究書の一章として発表し、少子化と年金財政に関する論文に関しては、日本経済研究センターのディスカッションペーパーとして公表した上で、現在、学術雑誌に投稿・査読中となっている。 長寿化と年金財政についての論文では、年金支給開始年齢の再引き上げが、フローの給付水準と財政の持続可能性にどれほどの改善をもたらすのかという点と、長寿化が人々のライフサイクル行動、特に貯蓄のパスに与える変化が、資本市場で成立する運用利回りの変動を通じて、年金財政にどのような影響を与えるのかについて分析をまとめた。 また、少子化と年金財政についての論文では、同じく少子化による貯蓄率の変動が、運用利回りの変化を通じて年金財政に与える影響を分析したものであるが、本論文が意味する政策的含意は、従来は経済前提と人口想定が連関なく機械的に与えられていた年金財政の推計において、実は両者について整合的な仮定を置くべきであろうということである。さらに、本研究の特筆すべき特徴として、年金数理モデルについて、厚生労働省が公表したモデルを改変して使用しているという点があげられる。従来の研究では、モデル間の差異が与える影響を峻別できず、エビデンスベースドな政策論議に対して限定的な意味しか持てなかったが、本研究から導かれるインプリケーションは、過去の政府推計と高い比較可能性を有することで、より深いものになっているといえる。
|