今年度は、前年度より継続して改訂し続けていた、少子化と長寿化が年金財政に与える影響を一般均衡論的見地から見て整合性のとれた前提に基づく年金財政シミュレーション分析で評価する論文について、国立社会保障人口問題研究所が発行する季刊社会保障研究に、査読済み論文として掲載発表すると共に、長寿化と年金財政に関する論文については、東大出版会からの研究書の一章として発表した。 査読論文として公表された、少子化と年金財政についての論文では、少子化による貯蓄率の変動が、運用利回りの変化を通じて年金財政に与える影響を分析したものである。従来は公的年金財政推計において、経済前提と人口想定が連関なく機械的に与えられていたが、実は両者について整合的な仮定を置くことで、推計の頑健性を増す可能性があることを示唆する研究となっている。 日本財政学会で発表した、医療介護保険財政の長期推計に関する論文では、従来、マクロ推計しか行われてこなかった医療介護保険財政で見落とされていた、地域間格差の問題を取り上げている。公的年金制度のように積立金を持たない日本の医療介護保険制度は、粗純粋な賦課方式といえるが、それゆえに、保険内での高齢化の影響を受けやすい。このことを鑑みれば、小規模の保険者統合を通じた都道府県レベルでの地域保険化を志向する現在の医療介護保険制度改革には、地域間の高齢化格差を十分に考慮しておく必要がある。分析では、政府の人口推計では、今後20年程度、地域間の人口構造は比較的収斂化していくにも関わらず、医療介護費用の都道府県間格差は、恒常的に拡大していくことが示された。これは、各地域に内在する医療費の非効率性を引き起こす要因を解消するために、リスク構造調整方式などのインセンティブ構造をもった制度改革が必要であることを意味している。
|