本年度は、市町村合併に関する先行研究のサーベイ、理論モデルの構築、平成の市町村大合併のデータの収集と整理を行った。 先行研究のサーベイでは、古くからある海外の研究と、平成の市町村大合併を契機に活発化した国内の研究を調べて要点をまとめた。また、学会や研究会で市町村合併に関わる研究報告があるときは出席し、報告者と情報を交換した。 理論モデルでは、私的財と地方公共財から効用を得る住民を仮定した。人口、所得分布、財政状況によって特徴付けられる2つの自治体が、それぞれ相手自治体と合併するか否かを住民投票によって決定し、両方の自治体で賛成多数になった場合のみ合併が実現する。各自治体の住民投票の結果は、中位投票者定理により、所得水準が全体の中位である住民の投票と一致することになる。このモデルから、合併を強く希望するのは、所得水準が自分は低く相手自治体は高いときと、財政状況が自分は悪く相手自治体は良いときである一方、人口の大小の影響は一意でないことが示された。 実証分析の準備としては、2001年から2007年にかけて実施された市町村合併に関する住民投票432件について、合併の議題(単に是非を問うか、それともどの自治体と合併したいかを問うか)、合併対象自治体、投票総数、賛成票数、反対票数、投票率のデータを収集し整理した。これにより、各自治体の住民たちの合併に関する選好(賛否)を直接知ることができるとともに、理論モデルと整合的なデータを実証分析に用いることができるようになった。さらに、47都道府県がそれぞれ県下の市町村合併を促すために独自に提供している合併時交付金について調査した。これにより、都道府県ごとの合併のインセンティブの違いを考慮した実証分析が可能になる。
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