本年度は、前年度の理論モデルを改訂し、実証分析を行ったうえで、論文の第一稿を執筆した。 理論分析では、数理モデルを次のように改訂した。前年度のモデルでは、所得水準がその自治体の中で中位である住民(中位投票者)が合併を望むか否かを表現し、合併を検討する2つの自治体の両方で中位投票者が合併を望む場合のみ合併が実現するという設定のもと、パラメータ(その住民の自治体と合併相手となる自治体の人口、所得分布、財政状況)に応じて合併の実現しやすさがどのように影響されるかを分析した。しかしながら、本研究の特徴は、実証研究において、先行研究が用いている「各自治体が合併したか否か」の2値データに代えて、より情報量の多い「各自治体の合併の是非を問う住民投票における賛成票と反対票の比」という連続データを用いることにある。そこで、これとの整合性を持たせるため、中位投票者だけでなく住民一人一人が合併を望むか否かを表現する数理モデルに改訂した。これにより、パラメータに応じてその自治体の住民のうち何%が合併を望むかを導出できるようにした。 実証分析では、次の変数について合併後から合併前を差し引いた値を説明変数とした:人口、65歳以上人口比率、可住地面積、一人当たり所得、公債費比率、合併特例法制定からの経過年数、合併支援金交付ダミー。このうち、賛成票を増やす効果があるのが65歳以上人口比率、可住地面積、一人当たり所得、経過年数、賛成票を減らす効果があるのは人口、公債費比率、合併支援交付金ダミーであることが確認された。合併特例法制定からの経過年数、合併支援交付金ダミーという直接的な合併促進要因だけでなく、人口、65歳以上人口比率、可住地面積など自治体の特徴を表す変数にも(相対的に小さいながらも)有意な効果が見られたことが重要である。
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