本研究は、連続時間契約理論アプローチを使って信用リスク分析を行い、金融市場における内生的な伝染効果や、投資の安全資産への回避の動向を理論・数値的に検証することである。平成20年度の計画は、理論モデルを構築しデータ分析を開始することであり、そのなかで連邦準備理事会(現在オバマ政権の下で米国の金融システムの監督機関)で滞在研究することであった. ただし金融危機が一層深刻化する中、平成20年6月になって20年度中の米国連邦準備理事会での受け入れが困難であることが判明した。しかし、この滞在研究は本研究にとって不可欠であるので、当初計画を変更し、平成21年度4月-5月に一カ月間、米国連邦準備議会研究部署に滞在する補助事業を行った.それに合わせて、当初予定していた20年度内での研究費の支出が21年度に一部繰り越された.新しい計画の下では、平成21年4~5月に現地調査のため米国連邦準備理事会に滞在し、5~7月に理論・実証分析を開始し、9月末までに論文「A Continuous-Time Anaiysis of Optimal Contracts with Restructuring in an Environment with Costly Information Disclosure : Theory and Applications」を書いた. 具体的な内容は、まず、平成18-19年度科学研究費用補助・若手研究(B)「連続時間契約モデルを用いた信用リスクにおける流動性プレミアムの分析」(研究課題番号18730209)において作成した情報非対称性の下での連続時間理論モデルを応用し、資産価格評価モデルを構築した.とくに企業再構成(私的整理、会社更生など)の期待破産リスク評価への影響を分析する理論的枠組みを構築した。連続時間モデルの数学的な取り扱いやすさを利用して、インパルス制御という手法を用いモデルを解析的に解くことに成功した。米国等では企業再構成は私的整理を含めると企業債務不履行の8割を占めると言われ、その影響を均衡資産価格評価モデルで分析する枠組みを作ったのが本稿の貢献である.
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