研究課題
平成22年度の大きな成果は、昨年度から行っている東京大学経済学部特任研究員の加納和子博士と法政大学経済学部武智一貴准教授との一物一価の法則に関する共同研究が当初の予想以上に進捗し、その成果が「Exaggerated Death of Distance:Revisiting Distance Effects on Regional Price Dispersions」としてワーキングペーパーとして公刊することができたことである。この共同研究の問題意識は、地域間価格差における輸送費の役割に関する過去の実証研究において、既存の回帰分析が財の貿易輸送をするかしないかという供給者の離散選択を無視しているという点にある。貿易輸送の離散選択が価格差同様に輸送費用に依存して決定されているとすると、価格差が観察できるかどうかは貿易輸送するかどうかに依存するため、価格差の情報だけから輸送費用の推定を行うと、その推定はサンプルセレクションバイアスの影響を受ける可能性がある。それゆえこの共同研究の目的は、財の貿易輸送の離散選択を考慮しサンプルセレクションバイアスを除去し地域間価格差における輸送費用の役割を再考することにある。この目的のため、離散選択がある経済モデルを考察し、そのモデルの制約を課した上で計量経済学的なサンプルセレクションモデルを推定した。推定においては当該財の生産地と消費地およびそれらの地域での価格の情報が必要になるが、従来の研究が扱う小売価格データでは、これらの情報は入手できない。この共同研究の大きな特色は日本の青果物卸売市場価格の日次データを用いることにある。このデータの極めてユニークな点は青果物の産地と産地卸売価格および消費地の卸売市場価格が直接観察できることであり、輸送の離散選択を確認できることにある。このデータを用いて構造的なサンプルセレクションモデルを推定すると、過去の回帰分析の結果よりはるかに大きい輸送費の距離弾力性の推定値が得られた。平成22年度と平成23年度を通じて数多くの国際学会および大学、研究機関にて研究報告を行うことができ、多くの高い評価を得ることができた。また国際経済学のトップジャーナルであるJoumal of International Economicsに投稿し、現在再投稿(revise and resubmission)の要請(平成23年11月)を受けている。
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すべて 雑誌論文 (4件) 学会発表 (4件)
東京大学日本経済国際共同研究センターディスカッションンペーパーCIRJE-F-767
東京大学金融教育研究センターディスカッションペーパーCARF-F-231
Working Paper Series 162, School of Economics and Finance, University of Technology Sydney
Center for Applied Macroeconomic Research, Australian National University, CAMA Working Paper 2010-31