研究概要 |
今年度は次の3つの課題に取り組んだ。まず、「Tax evasion, Acquisition of Tax Knowledge, and Tax Enforcement Scheme for Self-selection」が挙げられる。Falkinger and Walther(1991)は、税控除と追徴税率を組み合わせた2つの選択可能な制度を提示したとき、租税回避の程度によって納税者を選り分ける事ができ、したがってこのような制度を採用しながら税務調査を行えば現行制度よりも租税回避を抑制できると主張した。これに対して上述の論文では、租税知識の習得を考慮した場合、Falkinger and Walther(1991)の主張には限界があることを示した。次に、「Tax Evasion and Advance Tax Payment as a Deterrent」では、税の前納が租税回避行動に影響を与え得るというYaniv(2003)の指摘に注目し、税の前納が社会全体における租税回避に対して抑止力を持つかどうかを検証した。個人がどれだけ消費できるのかではなく前納の段階に比べてどれだけ確定申告後の税負担を抑えられたかに注目する限り、税の前納は社会全体の租税回避額を抑える効果を持つことを示した。これら2つの論文は、現在学術雑誌に投稿・査読中である。第3に、「A Comparison of Two Tax Enforcement Programs」では、多くの国で採用されている金銭的ペナルティの賦課方法に対する代替的賦課方法の提示を行った。とくに現実社会で用いられている非線形所得税に対して、従来のペナルティの賦課方法よりも代替的賦課方法の方が租税回避を抑えられることを示した。ただし、研究会報告において結果の導出過程に課題が見つかったため、次年度以降も引き続き当該研究を継続する必要がある。
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