平成21年度において、次の3つの課題に取り組んだ。まず、前年度に引き続き、理論上指摘されている2タイプのペナルティの賦課方法(Allingham and Sandmo型、Yitzhaki型)のどちらがより租税回避抑制の上で有効であるのかを検証した。この研究成果は、「Income Tax Evasion and Two Different Penalty Structures」という論文にまとめられている。第2に、「Income Class and Tax Evasion」では、特に所得水準(申告所得ではなく実際の所得水準)に注目しながら、租税回避を試みる個人に見られる特徴を明らかにする試みを行った。主な結果は以下の通りである。もし個人が租税回避額の増加に伴って租税回避行動に罪悪感を感じるような場合、ある一定水準以下の低所得者層でのみ租税回避が発生する。一方、もし個人が所得に占める租税回避の割合の増加に伴って租税回避行動に罪悪感を感じるような場合、高所得者層でも租税回避が発生しうる。第3に、Yaniv(1999)は、個人が期待効用理論に基づいて行動する場合には、税の前納は租税回避行動に与えないと指摘していた。これに対して、「Advance Income Tax Payment and Tax Evasion: Expected Utility Analysis」では、期待効用理論の下で税の前納が租税回避行動に影響を与え得ることを示した。また、Yaniv(1999)は税の前納額の増加はプロスペクト理論に基づいて行動する個人の申告額を引き上げると指摘していた。これに対して、本論文は、個人が期待効用理論に基づく場合、税の前納額の増加は個人の申告額を引き下げてしまうことを示した。これらの論文は現在学術雑誌に投稿・査読中である。
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