昨年度、租税回避行為に対する対抗措置としてのペナルティの在り方についての研究をおこなった。しかしながら、研究成果について、回避税額を抑制するペナルティの賦課方法を明確に提示できなかったという課題が残った。本年度は、昨年度のこのような課題を改善するために、引き続きペナルティの在り方に関する分析を行った。分析を通じて、次のようなことが明らかになった。現在、多くの国では、税の未納額に対して追徴税率をかける形で金銭ペナルティが科されている。しかし、必ずしもこのようなペナルティの方法は租税回避行為を抑える上で最も有益であるとは限らない。例えば、双曲線型の累進構造を持っている所得税制度の下では、寧ろ隠ぺい所得に追徴税率をかけた方が、租税回避に対するモチベーションを抑えられることがわかった。また、分析の結果から、ペナルティ構造は、現状のように1つの方法に固執するのではなく、寧ろ税制に合わせて柔軟に変えていった方が租税回避を抑えられることも明らかになった。 また、近年問題となっているタックス・シェルターについて、市場構造の解明に取り組んだ。タックス・シェルターとは、ループホールを活用した租税回避行為を行えるような金融商品であり、活用されるスキームは税法や金融取引に精通している専門家によって構築される。昨年度は、タックス・シェルターの問題が深刻化しているアメリカを中心とした事例研究を行った。その結果、タックス・シェルターについてある程度特徴をつかむことができたため、本年度は産業組織論を応用する形で、市場構造や抑制方法についての経済理論分析を行った。分析を通じて、タックス・シェルター産業における商品の価格設定やプロモーターや商品需要者が市場に参入する条件などが明らかになった。また、当該産業の拡大防止策として、税務調査の徹底やペナルティの賦課に代わる第3の手法として、租税専門家に対するライセンス取得数のコントロールを提示することもできた。
|