研究概要 |
本年度は,社会保障政策の世代内・世代間利害対立に注目し,政治経済学の視点から分析に取り組んだ.特に,所得再分配政策と世代内・世代間の所得階層移動が,再分配政策に対する投票行動を通じてどのように相互作用するかに焦点を当てて分析を行った. 将来の再分配政策に対する期待が高いと,人々は再分配を通じた所得補償に依存するため現在の教育投資を怠ることになる.その結果,所得水準の低い人々が多数となり,実際に高い再分配が実施され,教育投資が阻害されるため生涯を通じた所得階層移動率は低くなる.一方,人々の将来の再分配政策に対する期待が低いと逆のメカニズムが働き,所得水準の高い人々が多数となり,低い再分配水準が実行される.税の低負担は教育投資を促進し,その結果,生涯を通じた所得階層移動率は高くなる.このような再分配政策と世代内の所得階層移動の相互関係を明らかにした研究成果をInequalit y, mobility and redistributive politicsというタイトルの論文にまとめ,現在学術雑誌に投稿中である.
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