研究概要 |
本年度は,(1)年金と世代間公共財供給,(2)退職行動と社会保障,(3)国債発行と世代内所得再分配に関する政治経済分析を行った. (1)の研究では,若年世代から老年世代への所得再分配となる賦課方式年金と,老年世代は享受できないものの若年世代が将来に享受できる公共財(たとえば環境)への投資に注目した.分析の結果,所得不平等度の拡大は,年金と公共財供給の減少をもたらすことが明らかになった.この分析結果は,所得不平等度が高いほど年金給付水準が低下する先進諸国の経験的事実と合致する.退職行動と社会保障に関する(2)の研究では,社会保障給付水準が投票を通じて決まる経済を描写し,期待に応じて2つの投票均衡が発生することを明らかにした.一つは,給付水準が低く退職時期が遅い均衡であり,もう一つは,給付水準が高く退職時期が早い均衡である.この分析結果は,アメリカ,日本とヨーロッパ諸国の退職行動と社会保障給付水準の違いもたらすメカニズムを明らかにしている.国債発行と世代内所得再分配に関する(3)の研究では,国債発行を通じて所得再分配がファイナンスされる経済において,国債および再分配水準が所得不平等度にどのように影響されるかを検討した.分析の結果,借入制約の存在が,不平等度の政治経済的帰結に重要な役割を果たすことが明らかになった.中位投票者が借入制約に直面しない場合,不平等度の拡大は国債残高と再分配水準の上昇をもたらすが,借入制約に直面する低所得者が中位投票者の時,所得不平等度の拡大は,国債残高および再分配水準の低下をもたらすことを示した.
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