研究概要 |
本年度は,公共財供給と年金に関する世代間の利害対立に注目し,動学的な政治経済学の視点から分析に取り組んだ.具体的には,以下のような2期間世代重複モデルを用いて分析を行った.各世代は若年期に働き,老年期には退職する.若年期に所得税を支払い,可処分所得の一部を消費に回し,残りを国債購入に充てるとする.若年期から老年期への貯蓄手段は国債購入に限定する.老年期には,国債償還と年金給付を消費に回す.政府は労働所得税と国債発行による歳入を,公共財供給と年金給付に充てるとする. 以上のような設定で,毎期若年世代と老年世代が参加する確率投票を想定し,毎期投票に選ばれる政策変数の動学的な収束経路と安定性について調べた.また,高齢化による老年世代の政治力の増大が政策決定にどのような影響を与えるかを調べた.分析にあたっては,マルコフ均衡に注目した.すなわち,各期の投票の結果選ばれる政策変数は,確率投票における政府の目的関数に限界的に影響をもたらす状態変数(ここでは国債発行残高)に依存する. 以上の枠組みの下で,以下の2つの結果を得た.(1)国債発行残高と税率には負の相関がある.すなわち,国債発行残高が多い経済では税負担が少ない.他方,国債発行残高が少ない経済では,税負担が多い.(2)高齢化による老年世代の政治力の増大は,かならずしも年金給付の増大をもたらさない.代替的な支出である公共財に注目すると,老年世代の政治力と公共財供給水準には逆U字型の関係が発生することが明らかになった.
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