研究概要 |
本研究では、所与とされてきた戦略決定のタイミングを内生化する内生的手番決定モデルに基づき、国際租税競争という環境の下で、国際的二重課税の調整方法に関する比較を行った。国際的二重課税の調整方法には、外国税額を居住地国の算出税額からそれを上限として控除する外国税額控除方式(Credit)、居住地国の課税所得から必要経費としてそれを控除する外国税額免除方式(Deduction)がある。これら以外にも、国外源泉所得を非課税とする国外所得免除方式(Exemption)や国際的二重課税を全く調整しない未調整方式もある。しかし、Exemptionについては拙稿の分析からCreditの特別ケースと解釈でき、未調整方法についてはOakland and Xu (1996, International Tax and Public Finance 3, 45-56)の分析から結論を類推できたため、本年度もCreditとDeductionに特化して分析を続けた。その結果、次の4つの帰結を導出することができた。第1に、Deductionは全ての国がfirst-move advantageとなるが、Creditは少なくとも一国はsecond-move advantageとなる。第2に、Deductionでは同時手番の租税競争となるが、Creditでは逐次手番のそれとなる。第3に、調整方法に関係なく均衡では資本移動は生じる。第4に、Deductionと比較して、Creditはある国の経済厚生を上昇させるが、他国のそれは低下させる。以上の結果より「各国はなぜ明らかに効率的なDeductionでなく非効率なCreditを採用するのか」というBond and Samuelson (1989, Economic Journal 99, 1099-1111)への疑問に対して一定の解を与えることができた。
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