研究概要 |
組織(企業、政府)における権限の移譲と経済成長の相互依存関係について分析するために、モラルハザード問題を明示的に考慮した単純化したSchumpeterian Growth Modelの構築を行った。生産性の向上に寄与する業務に特化できる部下への権限の移譲は生産性向上率の改善に寄与する。しかし一方で情報の非対称性下においては部下の適切な努力を引き出すために追加的費用(情報レント)も発生する。本研究では市場規模の大きさ、Social Capitalの質、市場の競争度といった要因が、組織における権限移譲の程度を規定し、その結果経済の成長率にも影響することを示した。またあるパラメータ条件のもとでは、複数均衡が発生し、人々の期待形成に依存して「分権的な組織と高い経済成長率」が実現する均衡と「(比較的)集権的な組織と低い経済成長率」が実現する均衡のいずれかが生じることを示した。この複数均衡は同じような基礎的経済条件にある国においても人々の期待によって実現する組織の形態が異なり、その結果としての経済成長率に違いが生じる可能性があることを示唆する。またSocial Capitalの質の改善や競争政策促進が組織の分権化を生み出し、経済成長を高める可能性があることを示した。この研究はDiscussion Paper, Organizational mode within firms, and productivity growthとしてまとめられた。 上記の研究は政府組織を含む組織一般の権限移譲に関する理論モデルと解釈できる。そのため政府組織における権限移譲である地方分権の決定要因、および地方分権が経済成長に与える影響について一定の示唆を与えるものとなっている。
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