本年度は、東京証券取引所上場銘柄の2007年から2009年までの取引データを整備し、TOPIX Core30構成銘柄を対象に、業績予想修正発表前の注文フローの動向に関する実証分析を試みてきた。その結果、(1)ネガティブ(ポジティブ)情報の公開前には寄前気配とザラバ気配の両方について最良売り(買い)気配数量が増加していること、(2)情報公開前までの日数が長い場合にはインフォーマティブな指値注文の発生確率が高くなるが、情報公開直前にはインフォーマティブな大口注文の発生確率が大きく上昇することが明らかとなった。こうした実証結果は、情報トレーダーは私的情報の有効期限が長い場合には消極的な指値注文を出して情報の株価への反映を抑えるのに対し、私的情報の有効期限が短くなるにつれ、より積極的な成行注文へと注文を切り替えていることを示唆している。 また、昨年度に引き続きくくり直しを契機とした注文フローの変化に関する分析を試みてきたが、これまでに行った既存の計量経済モデルを用いた分析ではモデルの特定方法によって推計結果が大きく左右されてしまい安定した実証結果が得られていない。しかしながらくくり直しは売買単位を引き下げ、流動性トレーダーの行動に大きな影響を及ぼすと考えられることから、代替的な推計方法を考慮に入れながら来年度以降も研究を継続していきたい。 その他、本年度は証券化商品の発行利回りの決定要因に関する実証論文を改訂し、雑誌論文に掲載することになった。
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