平成22年度は4年計画の3年目であり、予定した年次計画に従い、構築した理論モデルから得られた分析結果を論文『Partial Harmonization of Corporate Taxes in an Asymmetric Repeated Game Setting』にまとめ、日本経済学会2010年度秋季大会(関西学院大学)で報告し、専門学術雑誌に投稿した。本論文では、初期資本量の異なる3国モデルにおいて租税協調が可能となるのか、またどのような状況下で協調の持続性が高まるのか、標準的な資本課税競争モデルをもとに繰り返しゲームの枠組みで分析を行った。3国全てが協調する全体協調1通り、2国が協調する部分協調3通りの計4通りの協調について考察を行い、以下のような興味深い結果を得ている。 ・3国協調では中規模国の相対的な資本量が3国の中央値に近づくにつれ、中規模国の協調する誘因が下がり3国協調を維持することが困難となる。 ・対照的に、中規模国を含まない大国と小国との2国協調においては、中規模国の相対的な資本量が中央値に近づくにつれ、大国と小国の協調する誘因が高まり、協調が維持されやすくなる。 ・中規模国を含む2国協調に関しては、中規模国の相対的な資本量が中央値に近づくにつれ、中規模国の協調する誘因が下がることから協調維持が困難となる。 租税協調を繰り返しゲームで分析している研究が少ないことに加えて、非対称国を扱っている分析が皆無であるため、本研究の結果は資本課税競争理論への貢献となるだけではなく、実際に非対称な国々による租税協調問題に直面している欧州連合(EU)やわが国の地方分権改革、道州制議論にも有益な指針となるものと思われる。
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