本研究の目的は、実験経済学の手法を用いて次の点を明らかにすることである。 すなわち、実物投資の技術的な特徴である非可逆性(一度設備投資を実行するとコストを支払うことなく元の設備水準に戻すことはできなこと)とタイムラグ(設備投資の意思決定を行ってから設備が稼働し始めるまで時間がかかること)の存在が、その設備から生産される財の市場価格やその投資によって価値が変動する証券の市場価格にどのような影響を与えるのか(バブルを生み出す傾向があるのかどうか)という点である。 本年度は、先行研究を分析・検討した結果、来年度に実施する実験を、次のようなデザインで行うことが、上記の点を解明するために望ましいということを結論づけた。 すなわち、被験者はある財を生産する企業の役割を与えられることとし、2つの生産要素(資本設備および可変要素)の投入量によって、財の生産量を決定することとする。財の需要曲線はあらかじめ与えられており、全ての企業が、設備水準の投入量を同時に決定する。すると、各企業の短期限界生産費用曲線が得られるので、それらから市場の短期限界生産費用曲線が得られる。こうして得られた市場の短期限界削減費用曲線と、既に公開されている需要曲線の交点によって、財の価格と各企業の生産量が決まり、それを生産するために投入する必要のある可変要素の量が自動的に決まることとする。 このようなデザインによって、多くの企業が設備投資を多く行うと財の価格が下がり、多くの企業が設備投資を少なめに行うと財の価格が上がるという実験の基本構造をシンプルな形で導入し、なおかつ設備投資の非可逆性とタイムラグの入ったデザインに容易に拡張できることを明らかにした。また、生産関数のパラメータを調整することによって、短期限界生産費用曲線の形状を直線にできる(そのため被験者が実験中に容易に計算できる)ことも明らかにした。
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