本研究の目的は、実験経済学の手法を用いて次の点を明らかにすることである。 すなわち、実物投資の技術的な特徴である非可逆性(一度設備投資を実行するとコストを支払うことなく元の設備水準に戻すことはできなこと)とタイムラグ(設備投資の意思決定を行ってから設備が稼働し始めるまで時間がかかること)の存在が、その設備から生産される財の市場価格やその投資によって価値が変動する証券の市場価格にどのような影響を与えるのか(バブルを生み出す傾向があるのかどうか)という点である。 本年度は、来年度に実施する実験に先立ち、投資の非可逆性とタイムラグが市場に与える影響を分析するための例として排出許可証市場に関する次のようなモデルを作成し、理論的な特徴を明らかにした。 モデルは2期間からなる。どの主体も2期目の末までに、排出削減投資か排出許可証の購入によって、1期目の開始前にあらかじめ決められている削減ターゲットを達成しなければならない。1期目には排出削減投資と排出許可証の売買をすることができるが、2期目には排出許可証の売買しかできない。2期目になると、投資の非可逆性とタイムラグにより、もはや排出削減投資の数量を変更することはできないからである。 このような排出許可証の市場においては、1期目の排出許可証の価格が理論的な価値よりも高い場合は2期目の価格が暴落し、逆に低い場合は2期目の価格が高騰するという、投資の非可逆性とタイムラグがない場合は発生し得ない価格変動パターンが生じることを明らかにした。
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