本年度は、実物投資の技術的な特徴である非可逆性(一度設備投資を実行するとコストを支払うことなく元の設備水準に戻すことはできなこと)とタイムラグ(設備投資の意思決定を行ってから設備が稼働し始めるまで時間がかかること)の存在が、各生産主体の投資行動にどのような影響を与えるのかを明らかにするために、以下のような実験を実施した。 この実験は、投資の非可逆性があるか否か、またタイムラグがあるか否かによって、2×2=4つのトリートメントからなる。いずれのトリートメントにも共通なのは、6人の被験者が生産者となり、固定要素(設備)と可変要素の投入によって財の生産を行うこと、そして、可変要素の投入量を決定する前に、各被験者は市場に財の売り注文を出し、コンピュータが担当する消費者との間で財の価格と取引数量を決定し、その数量を生産するのに必要な可変要素を生産設備に自動的に投入することである。各期間は2期間からなり、各期間で、設備水準の決定と、市場に出す売り注文の内容の決定(その結果と設備水準の数量によって可変要素の投入量が自動的に決まる)を行うことになる。トリートメントによって異なるのは、設備水準を決定するタイミングと、選べる設備水準の制約である。投資が可逆的なトリートメントでは、2期目の設備水準を自由に選べるが、非可逆的なトリートメントでは、2期目の設備水準を1期目の設備水準よりも低くすることができない。また、投資のタイムラグがないトリートメントでは、各期の市場が開催され結果が分かった後でその期の設備水準を決めることができるが、投資のタイムラグがあるトリートメントでは、各期の市場が開催される前に、その期の設備水準を決めなければならない。 以上の設定の下での実験を実施した結果、投資の非可逆性が1期目の設備水準を過小にすること、そして、投資のタイムラグが1期目の設備水準を上昇させることを明らかにした。
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