第二次大戦後のイタリア経済は、しばしば「混合経済」という言葉で特徴づけられるように、国家持株制度を通した国家の経済介入が大規模に行われてきた。この制度を担った国家持株会社の中でも、最大の機関が、産業復興公社IRI(イリ:1933-2000年)である。当該機関は、1930年代から、イタリアの産業部門の株式資本の40%にあたる企業と、金融部門の中核を担う大銀行とを統治し、戦後復興や1950年代の「奇跡の成長」を牽引したとされる。また、数多くの政策担当者や企業経営者を輩出し、イタリア経済に少なからぬ影響力を持ったと考えられる。本研究は、第二次大戦後のイタリア経済を特徴づけた国家持株制度に注目し、産業復興公社IRIの活動を実証的に検証することで、イタリア経済の本質に光を当てることを長期的な課題としている。平成20年度は、第一に、戦後直後のIRI存廃論争の内容を一次史料から検証し、戦後再建期のイタリアにおいて諸利害がIRIの存続を是とした背景、すなわち、イタリア経済における国家持株会社の存在意義を検証した。とくに、今年度の史料検証で、民間大企業のIRI存続に対する反対の立場ことを明らかにした。 第二に、戦後再建期のイタリアは、アメリカのヨーロッパ復興計画(ERP)援助資金の受け入れに伴い、国内の産業復興とヨーロッパの統合(域内貿易自由化)という、二つの課題を同時に背負うことになった。今年度は、イタリアの経済復興政策の計画・実行過程を、その中心となったIRIや融資受入金融機関IMI、イタリア外務省、EU資料館などの史料から検証した。本研究は、イタリア、EU、国際機関に保管されている一次史料を用いて、戦後イタリア経済の基盤となった国家持株会社の活動を検証し、ヨーロッパ統合がイタリアの経済政策形成に及ばした影響、という視点からアプローチする点に、学術的な特色を持つ。その成果は、イタリア資本主義特有の国家介入体制が構築された背景を明らかにするという歴史研究の意義のみならず、地域経済統合と地域間経済格差の問題を考える上でも、重要な示唆を与えうる。
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