第二次大戦後のイタリア経済を特徴づけた国家持株制度に注目し、その最大機関、産業復興公社IRIの活動を実証的に検証することで、イタリア経済の本質に光を当てることを長期的な研究課題としている。平成21年度は、憲法制定会議の史料から、戦後直後のIRIの存廃論争について、産業界、政策当局の主張を検出した。また、イタリア国立公文書においてIRIの戦後の経営関連史料を調査・収集し、同国の戦後復興において当該機関がどのような役割を果たしたかを、IRIが作成した各産業の現状調査報告書や各産業・企業の復興計画から読み解き、考察を重ねている。さらに、産業復興計画実行のためにIRIや関係機関が外国の融資機関との間で交わした交渉関係の資料をひもとき、戦後イタリアの通貨安定化・貿易自由化・通貨の交換性の回復を目指す政策がどのような構想から展開・実現したのかを検証している。この考察に当たり、IMFの史料館においても資料調査・収集に着手し、戦後のイタリアの金融・経済政策の運営を、IMFなどのブレトン・ウッズ機関が、どのように考え、実際にどんな影響を与えたのかを、IMFのコンサルテーション・ペーパーやスタッフ・リサーチ・ペーパーから検出している。以上を通して、イタリアの経済復興やヨーロッパ統合の進捗にIRIが果たした役割を、その産業政策構想・主要人物の活動・関係諸利害との関係性など諸レベルから検証するという研究は、日本はもとよりイタリアにおいても皆無である。よって、戦後再建期のイタリアが対外的な制約(戦後の国際金融秩序の構築と、ヨーロッパ統合を中心として)の下で、どのような政策運営を行ったかを、IRIの産業復興構想や活動の実態検証から考察することに本研究の意義と独自性がある。
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