第二次大戦後のイタリア経済を特徴づけた国家持株制度に注目し、その最大機関、産業復興公社IRIの活動を実証的に検証することで、イタリア経済の本質に光を当てることを長期的な研究課題としている。今年度は、イタリア国立公文書においてIRIの戦後の経営関連史料を調査・収集し、同国の戦後復興において当該機関がどのような役割を果たしたかを、IRIが作成した各産業の現状調査報告書や各産業・企業の復興計画から読み解き、考察を重ねた。さらに、IMF文書間において収集したコンサルテーション・ペーパーやスタッフ・リサーチ・ペーパーから、イタリアにおいて産業復興計画の実行のためにIRIや関係機関が外国の融資機関との間で交わした交渉関係の資料をひもとき、戦後イタリアの通貨安定化・貿易自由化・通貨の交換性の回復を目指す政策がどのような構想から展開・実現したのかを検証した。この結果、国際金融機関はイタリアのとった金融引き締めによる早期の通貨価値の安定化政策を支持していたことを明らかにした。一方で、イタリアはとくに50年代以降、ヨーロッパ市場における貿易自由化政策を積極的に推し進めていった。イタリアにおける貿易自由化政策とヨーロッパ統合思想について構想の段階から検証した結果、イタリアでは、第一次大戦期に、戦争再発防止およびヨーロッパ域内市場の形成という目的からヨーロッパ連邦という形でのヨーロッパ統合が提案されていたこと、二次大戦期から戦後直後に、ふたたび、非戦、貿易自由化の目的から統合が提唱されていたこと、戦後のイタリアにとってヨーロッパ統合には、余剰労働力の輸出と地域経済格差問題への対策をヨーロッパで行う、という目標も込められていくことを明らかにした。これらの目標は、産業復興や南部開発という形で戦後のIRIに期待された事業目標であり、ヨーロッパ統合の進捗とIRIが果たした役割とは密接な関連を持っていたと考えられる。
|