第二次大戦後のイタリア経済を特徴づけた国家持株会社制度に注目し、その最大機関、産業復興公社IRIの活動を実証的に検証することで、イタリア経済の本質に光を当てることを長期的な研究課題としている。平成23年度は、イタリア銀行文書館で収集した史料から、イタリアの金融当局が戦後復興という課題にどのような政策運営を行ったかを検証し、以下のことを確認した。戦後初の中央銀行総裁から大統領になったエイナウディと1960年まで中央銀行総裁を務めたメニケッラは、国際収支の均衡と金準備の再建、中長期的な通貨価値の安定を金融政策の目標とした。また、イタリア企業の生産性と競争力を高めるために、外資導入と貿易自由化に積極的な姿勢をとった。ヨーロッパ統合の進展による貿易自由化の進展とともに通貨の対外的交換性の回復が重要な課題となり、1958年末、リラは対外交換性を回復し、その後、商業銀行による外為取引の自由化が推進された。本研究では、IMF文書館で収集した資料からも、ブレトン・ウッズの国際金融協力がイタリアの金融当局の政策運営にどのような影響を与えたかを検証している。戦後イタリアの経済復興や貿易自由化、通貨交換性の回復を一次史料レベルから検証するという研究は、日本はではほとんど蓄積がない。よって、戦後再建期のイタリアが対外的な制約(戦後の国際金融秩序の構築と、ヨーロッパ統合を中心として)の下で、どのような政策運営を行ったかを、イタリアの金融当局の産業復興構想や政策運営の実態検証から考察することに本研究の意義と独自性がある。
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