本年度は、3つのケースを対象に一次史料を用いて研究を進めた。(1)東洋紡績と大阪合同紡績を素材にして、戦間期における綿糸紡績業の企業合併を検証した。この合併の動機は、国際競争の激化等に対応するための産業合理化の徹底であった。また、合併条件は、計測結果から見て、東洋紡績に有利なものであったが、大阪合同紡績は様々な経営上の問題を抱えており、同社の経営資源の質的な低さを割り引く形で「公正な条件」が設定されたとも解釈できる。効果に関しては、東洋紡績が合併後に旧大阪合同紡績の工場設備に対して、ヒトやカネ、情報等の経営資源を再配分し、資産の効率的な活用を図ったことを明らかにした。 (2)戦時末期の三菱化成の成立(日本化成と旭硝子の合併)と戦後に実施された同社の3社分割を検証した。この合併は、日本化成を存続会社として対等条件で行われた。合併比率について、池田社長が、株価と配当率の近似性を根拠に挙げながら公正性を強調する一方で、株主は、純資産等に基づく解散価値を考慮して算出すべきと述べ異議を唱えた。合併比率を計測した結果、公正性が著しく損なわれたとは言えないことが判明した。3社分割に関しては、三菱化成が、戦時期の合併と総動員政策との関係を認め、さらに事業間の有機的な関連性の薄さを明言した点に注目した。それは、この合併が期待した効果を十分に上げ得なかったことを示唆する。 (3)日本発送電と東北振興電力の合併を題材に、電力国家管理と地域利害の対立・調整の過程を追跡しながら、戦時期日本電力業における企業合併の意義を検討した。この研究については現在、学会報告の際のコメントを受けて大幅な加筆・修正を施している。 この他、名古屋市市政資料館や電気の文書館、三菱史料館、東京大学経済学部図書館等で資料調査を行った。21年度はこれらの資料を用いて研究を進める予定である。
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