本年度は、主に、江戸時代から日本と中国が競合し近代に日本が先行した陶磁器製造業と、戦間期に日本と中国で競合したゴム製品製造業を題材に、産地を成り立たせている「秩序」を、とりわけ品質という観点から、具体的に解明することに主眼を置いた。具体的には、これらの産業について、国立国会図書館、各大学図書館、上海市梢案館、上海図書館などにおいて史料調査を行った。そこで蒐集した史料を分析・検討し、各産業の秩序を、特に同業者組織と企業間関係・個別企業の戦略との相互関係に着目して分析するとともに、そこから両国の違いの背後にある品質や組合に対する意識の違いを浮き彫りにすることができた。そして、このテーマに関して、昨秋、経営史学会全国大会において学会報告を行い、今後の研究の課題について認識を深めることもできた。現在のところ、それらの成果を論文にまとめる作業を行っている。 また、資料調査ではあわせて、輸出品検査に関する史料や文献も蒐集し、日本と中国における輸出品検査の位置が異なることなどが明らかになってきた。さらにその研究を深化させたい。 史料調査・論文作成とあわせ、産地の制度・慣行を分析する視角をさらに深化させることにも主眼を置いた。特に取引費用の理論やagency理論、そしてフランスのconvention theoryの先行研究についてサーベイを行い、関連ある近年の学説を吸収した。これらの実証研究と最新の学説を踏まえて、品質や輸出検査・同業者組織に対する認識に違いがあることを明らかにし、他産業にも分析を敷衍しつつ一般化するとともに、同業者組織、産地ブランド、輸出検査などの分析をさらに深化させることによって、最終目標であるその背後にあると考えられる「公」と「私」の関係をも明らかにするための予備作業も行うことができた。
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