まず、当該年度も、上海市档案館や東京大学東洋文化研究所・横浜開港資料館など、日本・中国の史料館・図書館などに赴いて、検査所や取引所の設立・運用過程、およびそれと密接な関係にある同業者組織に関する一次・二次史料の調査・蒐集を進めてきた。検査所や取引所を検討した結果、産地共通の課題である製品の品質問題などに対し、同業者がどのような課題を設定し、いかに制度を設計してきたのかという点で、両国の対比が鮮明になった。そのような差異から、日本・中国における各企業の行動、特に企業間協力のあり方や結果について両国の異同が明らかにできたと考えている。その背景にある両国の中小工場主体の産業における同業者組織に着目し、その機能を品質問題・検査所・取引所などとの関連から分析した。目下、ゴム製品製造業や陶磁器製造業の産地内の制度や産地内協力に関連した日中比較の論考を準備している段階であり、その作業をさらに加速させる必要がある。 次に、産地内協力や同業者組織の特徴が異なる一因にある業者の意識の違いを史料から探り、産業ごとの成果を産業横断的に俯瞰して「産地秩序」の異同を解明しようとした。本研究は、検査所や取引所、同業者組織など、各経済主体が産地の課題に協力して取り組ませるメカニズムを対象としているが、合理的経済主体が協力しあう条件に関する研究は数多く存在しており、それらを蒐集・分析して今回の研究成果に活かすことにも努めた。とりわけ企業間協力が成立する必要条件について、同テーマの経済学・経営学文献をサーベイするとともに、それらから日本と中国の企業間協力のあり方を比較し、各産業間にある共通の特徴を見出すことによって、両国における「公」と「私」との関係の異同について究明した。そして、先述の産業別研究にフィードバックさせ、研究成果を一般化するよう努めてきた。
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