平成20年度の主たる作業は、資料の収集であった。具体的には、インド・プネにあるタタ中央公文書館や、インド・ムンバイにあるマハーラシュトラ州立公文書館、インド・デリーにある国立公文書館などで、19世紀後半から20世紀前半の綿紡績業の生産要素取引制度に関する一次文献、もしくは当該時期の植民地政府の経済政策に関する一次分権の収集を行った。このほかに、平成20年度は、京都大学が保有する「英国議会文書」データ・ベースを閲覧し、議会文書内のインド統治関連資料、特に経済政策関連資料の収集を行った。 平成20年度は、これら収集した資料と、本研究が開始される前に収集を終了していた資料をもとに、3本のディスカッション・ペーパーを発表した。うち1本は、本研究の考察対象であるボンベイ綿紡績業・カルカッタ・ジュート紡績業、タタ鉄鋼所、の20世紀前半の長期資金調達動向に関する考察を行った。この考察において、既存の研究での通説に反し、長期資金調達源として減価償却積立金の果たした役割が大きかったこと、減価償却積立金の役割の増加の背景に、当該時期の証券取引所の機能不全が存在していた可能性を示唆した。もの、もう一本は、インド史では「Managing Agency」と呼ばれる、いわゆる財閥の類似機関と傘下の企業との長期資金の授受をめぐる関係を明らかにしたもの、最後の1本は、タタ鉄鋼所が1930年代、輸出志向型の成長を遂げることができなかった原因を、当時インドの鉄鋼市場に強制されていたイギリス標準規格との関係に注目しながら明らかにしたもの、である。
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