当該研究の最大の目的は、近代的製造業が必要とする質・量の労働力・長期資金といった生産要素の需給を調整する取引制度が、植民地期から計画経済期に至る20世紀前半のインドにおいてどのように生成したかを、当時の3大近代的製造業(ジュート紡績業、綿紡績業、鉄鋼業)を舞台に、企業レベルの資料に基づいて明らかにすることである。 平成21年度は研究当初、特に日本国内とインドでの史料収集と論文執筆について、実施計画を作成した。史料収集に関する研究実績は以下の通りである。国内の史料収集に関しては、研究代表者が大阪市立大学に移籍したことで、比較研究対象の一つである日本綿紡績業の関連史料を多数有する関西での史料収集が格段に容易になった。これらの史料は、必要な際、大阪市立大学図書館や近隣大学図書館で収集作業を行っている。インドでの史料収集は、平成20年度は多く時間を割くことができなかった。他方、イギリスにおいて、インドの財政・金融政策に関する史料の収集作業を1週間行った。 平成21年度研究当初、植民地期インドの近代的製造業の取引制度の発達に関する論文3本を執筆するという計画を立てた。同年度の研究実績は、次の4本の英文論文を執筆し、すべて査読付雑誌に投稿したことである。(1)19世紀インド大規模産業の取引制度の発展を、特に鉄道業に焦点を当てた論文、(2)20世紀前半タタ鉄鋼所の熟練労働者の前職と彼らの鉄鋼所就業後のキャリア・パスに関する論文、(3)1930年代インド製造業のコーポレートガバナンスの有様を主要株主の株式保有比率等に注目しながら明らかにした論文、(4)20世紀前半のインド鉄鋼市場の特徴とタタ鉄鋼所の発展に関する論文。これらの論文のうち、既に刊行されたのは(1)のみで、(4)は受理され、初校原稿待ち、他は、査読結果待ちである。 平成21年度の史料収集と論文執筆は、国際的なインド経済・経営史研究の進展に貢献する重要な活動であった考えられる。
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