この研究課題は、19世紀後半の南ウェールズ製鉄業の企業間関係を、具体的にはこの地域の製鉄業を代表するダウライス製鉄会社を中心に考察するものである。これまでの研究は個別製鉄会社の経営内容に関心が集中し、企業関係に関心が及んだとしても製鉄会社間の関係しか検討してこなかったのに対して、この研究では地域の関連産業との関係を明らかにすることによって産業集積・工業都市の実態を明らかにするところに意義がある。 平成20年度に実施した研究は大きく2つに分けられる。第1は、地方鉄道の延伸期である1860年代を対象として、地方鉄道会社とダウライス製鉄会社の関係を検討したものである。この研究は、グラモーガン公文書館に所蔵される膨大な量に及ぶダウライス製鉄会社受領書間綴りに所収される複数の地方鉄道会社からの書簡を検討したものである。その結果、(1)製鉄会社は鉄鉱石の搬入・鉄の搬出など鉄道会社の輸送力に依存していただけでなく、鉄道会社も製鉄会社が供給する鉄・石炭に頼るという相互依存関係にあった、(2)しかし、当時の鉄道輸送は事故や誤配・遅配などさまざまなリスクを伴うものであり、鉄道会社の運行管理能力が製鉄会社の操業にとって重要であった、(3)ただし、両社はそれらの問題の責任を忌避せずにむしろ活発に共通する課題の解決に向けて協議を重ねていた、ことが明らかになり、輸送費の低減を超えた産業集積の効果の一例を示すことができた。以上の成果は「1860年代南ウェールズにおけるダウライス製鉄会社と地方鉄道会社」『経済学論叢』(同志社大学)第60巻第4号として発表した。 これを受けて、現在進行中の第2の研究では、製鉄会社と金属加工業者らを仲介する鉄鋼商フォレスター・アンド・カンパニーとダウライス製鉄会社の関係を検討している。この成果は平成21年度中に発表する予定。
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