本研究の目的は、日本が国際競争力を持つ「機能性化学品」に焦点をあて、日本企業が国際競争力をもつに至った歴史的経緯や競争優位の源泉について、企業戦略、製品開発マネジメントの視点から明らかにすることにある。その際、近年、経営学の分野で発展してきた「アーキテクチャ」の分析枠組みを用いて産業間比較の視点から考察することが特徴の1つである。最終年度である本年度は、研究計画にしたがって、機能性化学品の特徴をよりクリアにし、産業間比較の視点を強化するために、汎用化学品、、医薬品など、隣接産業の調査に力点をおいた。具体的には、汎用化学品については三菱化学、医薬品については武田薬品、アステラス製薬、中外製薬などの大手企業の経営幹部、研究開発部門、マーケティング部門などを対象として調査を行った。また、少数ではあるが主要製品のケーススタディも実施した。これにより、これまで本課題の調査研究を通して得られた事実発見、および機能性化学品、汎用化学品、医薬品を含めたプロセス製品の開発特性を包括的に説明するために構築されたアーキテクチャのフレームワーク(藤本・桑嶋(2009)、桑嶋(2010)などを参照)の有効性・妥当性が確認された。また、従来やや手薄であった製品開発とマーケティング・販売部門の連携パターンやそれらが製品開発成果に与える影響も明らかとなった。これら本課題で得られた知見については、これまで断片的に発表してきたが、今後まとまった研究書の形で発表することを目指して取り組みを進めている。さらに、今回の調査では、今後調査検討を深めることでより有益な知見が得られる可能性のある論点がいくつか明らかになった(たとえば企業戦略と個別製品開発プロジェクトの中間に位置する製品開発システムレベルでの分析など)。こうした点については、今後の研究課題としたい。
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