イノベーション研究の分野では、イノベーションに影響する知識創造は孤立した状況では起こりえず、組織や個人を超えた連携によって起こることが明らかにされている。このことが、コンテンツ産業においても成り立つかどうか、アニメーション産業と料理レシピ産業に焦点を絞り、新しい商品の開発・普及に対する組織・個人を超えた連携の影響を明らかにした具体的には、第一にアニメーション産業において、3DCGという新しい技術の導入に伴い、新しい技法の開発と普及が誰によってどのように行われているのか、日米を比較することによって分析した。その結果、アメリカでは技術の専門家と作家が役割を分担し、その連携によって3DCGの導入が進む一方、日本では技術の専門家が関わることはなく、導入が進んでいないことがわかつた。また、このような違いが起こる原因が、アニメーションスタジオが元来持っている組織能力の違いにあり、アメリカのスタジオの組織能力が「システム支援型」であるのに対し、日本は「擦り合わせ型」であることがわかった。第二に料理レシピ産業において、IHという新しい熱源の技術の導入に伴い、新しい調理法の開発と普及が誰によってどのように行われているのかを分析した。その結果、電気機器メーカーや電気事業者のみでは開発と普及を成功させられず、それらとは独立なユーザー、しかしメディアを通じて大衆への影響力を持つリードユーザーとの連携が必要であることが明らかになった。リードユーザーには、薪しい技術の機能性を追及する「論理的リードユーザー」と、社会トレンドを直観的に捉えることができる「感性的リードユーザー」の2種類があり、論理的リードユーザ野との連携のみでは普及は成功できないことも明らかになった。 本研究は、イノベーション研究の手法の応用性検証として、またコンテンツ研究の新しい手法の開発として、学術的に貢献するものと考えられる。
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