イノベーション研究の分野では、イノベーションに影響する知識創造は孤立した状況では起こりえず、組織や個人を超えた連携によって起こることが明らかにされている。このことが、コンテンツ産業においても成り立つかどうか、料理レシピ産業とおもちゃ産業に焦点を絞り、新しい商品の開発・普及に対する組織・個人を超えた連携の影響を明らかにした。 具体的には、第一に、料理レシピ産業において、IHという新しい熱源の技術の導入に伴い、新しい調理法の開発と普及が誰によってどのように行われているのかを分析した。その結果、電気機器メーカーや電気事業者のみでは開発と普及を成功させられず、それらとは独立なユーザー、しかしメディアを通じて大衆への影響力を持つリードユーザーとの連携が必要であることが明らかになった。リードユーザーには、新しい技術の機能性を追及する「論理的リードユーザー」と、社会トレンドを直観的に捉えることができる「感性的リードユーザー」の2種類があり、論理的リードユーザーとの連携のみでは普及は成功できないことも明らかになった。 第二に、フィギュア、携帯電話ストラップをきっかけに形成された大人向け玩具の市場において、玩具メーカーと芸術家の連携による商品が、どのように開発され普及したのかを分析した。開発は2種のタイプにわかれ、芸術的なコンテンツを既存の形式と組み合わせるケース、任意のコンテンツを芸術的な形式に組み合わせるケースである。普及には、インターネットを用いることにより、幼少時の玩具経験を同じくする人同士の情報交換が可能になったことが、大きく影響したとわかった。 本研究は、イノベーション研究の手法の応用性検証として、またコンテンツ研究の新しい手法の開発として、学術的に貢献するものと考えられる。
|