本年度は、社会的現象としてベンチャービジネスを捉えるために、(1)理論的研究と(2)実証的研究の双方をおこない、それぞれに研究報告と論文執筆を行った。まず(1)理論的研究については、近年の企業家研究における理論的新潮流である制度的企業家概念について、組織学会、日本経営学会関西部会で報告した上で、ディスカッションペーパー(「埋め込まれた企業家の理論射程 : 埋め込まれたエージェンシーに対する理論的考察」)を刊行した。現在、我が国には制度的企業家概念に関する包括的なレビューが行われていないため、この研究業績は非常に重要な学術的意義を有すると考えられる。 次に(2)実証的研究については、本年度は大阪市天満界隈におけるクリエイター集積に関する調査研究を中心に実施している。具体的には、国内の主要学会(組織学会・日本経営学会・企業家研究フォーラム・日本ベンチャー学会)で4度の研究報告を行っただけではなく、ディスカッションペーパー(「制度的企業家の言説分析 : フリーランス・クリエイターの世界」)および海外学術誌("Analysis of the Innovation Process Created through the Management of Business Incubators in the Japanese Content Industry")にそれぞれ一編の論文を発表した。これらの研究成果は、前述の理論的研究の成果を踏まえているだけではなく、言説分析といった新たな方法論的展開を試みており、国内外において先進的な研究成果であるといえる。 以上の研究成果に加えて、在阪華僑企業家に関するレフェリー付き論文(埋め込まれた企業家の企業家精神 : 神戸元町界隈における華僑コミュニティを事例として)を一編、著書(企業家の社会的構成 : 組織/集団の再生産と企業家精神)一冊を公刊した。
|