近年、成果主義型の報酬制度が多くの企業で導入された。成果主義型の報酬制度においては、客観的な業績指標に基づいて賃金(ボーナス)が支払われる。しかし、日本ではこの報酬制度はうまく機能しなかった。最近では、客観的な業績として表れにくい従業員の貢献を管理者が評価するという主観的評価による報酬制度が採用される傾向にある。本研究はこの主観的な評価による報酬制度について分析を行った。この制度においては上司である管理者が部下を評価し、その評価に基づいて従業員の賃金は支払われる。よって、管理者が部下を評価する能力、つまり、モニタリングの精度を改善するための努力を自発的に行い、さらに、部下に対する評価を正直に賃金に反映させることが重要である。しかし、これらを達成することは簡単ではない。なぜなら、部下の評価には管理者の主観が入ることを避けることはできないため、管理者がモニタリングを行ったかどうかを確認することはできないし、評価を正直に報告しているかどうかも確かめることができないからである。本研究ではこの問題を解決する方法を明らかにした。経営者・管理者・従業員から構成される単純な企業を数理モデルによって分析した。解くべき問題はモラルハザードとアドバース・セレクションが組み合わさったものである。分析により、次の結果を得た。1.管理者に自発的にモニタリングさせるには、部下が小さい確率で怠けることを認めなければならない。2.客観的な業績指標と主観的な評価の両方が使える場合、環境に応じて最適な報酬制度は異なる。それは、(1)客観的な業績指標のみを利用する、または(2)客観的指標と主観的な評価の両方を利用するのいずれかである。主観的評価のみを利用することは最適とはならないことが明らかとなった。
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