企業組織における報酬制度について分析を行った。従業員が投じた努力に関する客観的な業績指標と主観的な業績指標がある場合に、これらを従業員の報酬にどのように反映させるべきかを明らかにすることが目的である。経営者、上司、部下の3人から構成される単純な数理モデルを構築し、分析を行った。上司と部下はプロジェクト実行のために努力を投入する。経営者は上司またはプロジェクトに参加していない第二者をモニターとして指名できる。モニターは部下が選択した努力を評価する。モニターが評価のための努力を行えば、部下が選択した努力を完全に観察することができる。一方、評価のための努力を行わなければ、部下の努力を知ることはできない。観察された努力はモニターの私的情報となる。つまり、経営者はモニターが評価のための努力を行ったかどうかを知ることはできない。よって、経営者は部下の評価をモニターに報告してもらわなければならない。このような状況において経営者は誰をモニターとして指名すべきかを明らかにした。評価のための努力費用が十分に小さい場合、モニターに特化する第三者を雇う追加費用が十分に小さければ、プロジェクトに参加しない第三者をモニターとして雇うことが望ましく、追加的な費用がかかる場合は上司をモニターに指名することが望ましいという結果が得られた。また、モニターに評価のための努力への誘引を与えるために部下は確率的に怠けることを認めることが最適であることも明らかとなった。さらに、最適な賃金契約においては、部下の賃金はモニターによる評価のみに応じて支払われ、モニターの賃金は自分が経営者に報告した部下の評価とプロジェクトの結果の両方に応じて支払われるという結果は興味深い。この分析は論文としてまとめられ、2010年に国民経済雑誌に掲載予定である。
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