研究概要 |
本申請の目的は, 岡山県倉敷市児島地区を中心として, 瀬戸内沿岸部に広がるデニム・ジーンズ生産の集積地帯を対象にしたフィールド調査に基づき, 産地型集積の持続的発展とその蹉跌をきたすメカニズムを探ることである。とくに興味深いと思われるのは、産地型集積の生産能力を下支えすると言われてきた中小の専門企業群による「柔軟な専門化」と呼ばれる原理とは逆行し、カイハラが紡績から織布、整理加工に至る一貫生産ラインを展開し、なおかつ高付加価値製品の多品種少量生産をも実現している点である。川上に位置するデニム素材の供給は、高度に寡占化している。一般に素材産業はスケール・メリットを追求する傾向にある。それに加えてデニム生地は天然繊維を用い、洗い加工(ダメージ加工)によってデザイン性を付加できることから、先述の川下工程に至るまで紡績メーカーが中核的な役割を果たすことができる。紡績出自の大手メーカーは作業の多くを外部委託し, 費用圧縮を徹底している一方で, 創業1893年で現在デニム専業メーカーであるカイハラは国内一貫生産ラインを展開し、デニム生地の国内シェアは約5割と言われ、グループ売上高を急拡大させている。また年間を通じて400種類とも言われる試作品を経済的に生み出す仕組みを構築している。こうした大胆な設備投資は株主などへの説明責任がない非公開企業だからこそ可能となる。設備投資は毎年巨額の減価償却費を生むし、中価格帯を主戦場とする大手と高付加価値セグメントを狙う無数の中小メーカーとを結びつけることで、ニーズが先読みしづらく需要変動も大きいアパレル産業に適応していける。以上の結果は産地型集積の形成・持続メカニズムを考えるうえで、市場細分化が進展したことで生産基盤の拡充が叫ばれ、適応的な生産能力が更なる市場細分化を許すといった技術と社会的状況との相互規定的な循環過程と捉える可能性を示唆する。この考え方をカイハラ自身が実行しているか否かは実証的な問題だけれども、考え方としての可能性について今後議論を深めていく価値は十分にある。
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