研究概要 |
本研究で重視したのは,デニム生地サプライヤーと,最終製品であるアパレル商品のOEMメーカーという2つの企業カテゴリーである。 デニム生地供給は現在寡占化が進み,紡績工程を担当する3社がプロトタイプ創出型企業として存在する。ジーンズの履き心地やデザイン,洗濯時の耐久性などに大きく影響するのは紡績工程であり,デニム用綿紡糸は世界中のファッションに関する情報を収集する営業担当が開発のイニシアチブを握る。彼らが結果的に製品の多様性や高品質を実現し,ジーンズ・メーカーでの企画・開発力を底上げすることによって,彼らからの信頼を獲得することに貢献しうる。 またアパレル商品のOEMメーカーについては,大消費地からの商業的知識の入口となるからである。大消費地に近い大手メーカーはもはや生産設備を持たず,流通企業の業態に近くなっている。かつて素材の確保,商材の流通といった補助作業は商社が担当したけれども,繊維・アパレル産業の後退に伴って商社の繊維・アパレル部門は規模縮小し,代わってブランド価値の最大化という新たなミッションのもとで組織化されたメーカーが,縮小された商社機能を肩代わりするようになった。結果的に大手メーカーは短期的な収益に直結する企画・開発を好むようになり,自らリスクを負ってまで作品性を追求することはなくなった。とくに生産部門の知識が不足しがちな彼らの製品展開に対して,OJTでの訓練を通じて生産,企画・開発,営業・流通などの知識を身につけたOEMメーカーの営業担当者は,交渉の席上でも大きな存在感をもちうるという。 ただし楽観的でいられるばかりではない。確かに純粋な創業の事例ばかりではなく,事業継承による第二次創業という場合も含めて、経営者層の若年化傾向が観察されており、多くの産地型集積で後継者不足が嘆かれているのと対照的だと考えられる。その一方で,実際のところ繊維・アパレル産業全体が厳しい国際化の圧力を受けているがゆえに,仕事の場でもあり生活の場でもある産地型集積の長期的持続性を危うくする可能性があることも看過できない。経営者としての経験を積む途上である彼らが,ある程度まとまった設備投資を行いつつ,先行き不透明なアパレル産業で生き残っていくことは確かに困難である。ハイリスク経営が多産多死の原則で営まれている限り,産業集積の存続は可能かもしれないけれども,そこまでの新規参入がこの産地型集積に見込まれるかどうかは,決して楽観視できない。事実,三備地区の繊維・アパレル事業所数は減少の一途を辿っている。しかしながら単に経営の底上げ的な地域経済振興のために補助金や低利の貸付などが投入されても、十分な経営改革を伴わない従来的な企業の延命に終わる場合もある。どのようにこの産地型集積を持続的に発展させていけば良いのか、簡単な解決策は見出されていないのが現状である。 現在これらの研究成果は、日本経営学会の『日本経営学会誌』に投稿中である。
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