研究概要 |
平成20年度は, 平成17年にわれわれが実施した質問票調査の再分析を行ない, オフィス空間の物理的特性がそこで働く者のコミュニケーション・パターンにどのような影響を及ぼすかということを実証的に明らかにしてきた. より具体的には, 大手化学メーカーと大手電機メーカーの関連会社の2社を対象とした質問票調査の再分析を進め, 以下の知見を明らかにした. 1. Allen(1977)などの先行研究と同様に, 人員間の距離は対面コミュニケーションを減少させる効果を持っていること. 2. 通常われわれは, 電話や電子メールは距離を克服するコミュニケーション手段と考えるのだけれども, 少なくとも電子メールに関しては距離とは無関係に用いられていること. すなわち, 遠く隔てた人とのコミュニケーション手段にとどまらないこと. 3. 距離を隔てた相手と対面コミュニケーションを取らなければならない際に, 電話や電子メールなどの代替手段が必ずしも機能しないのであれば, 組織的な試みが必要になること. その一つの試みとして, 組織内で多数の人が行き交い, 議論をする場となる喫煙スペースやカフェテリアなどのいわゆる<たまり場>に着目して分析を進めた.その結果, <たまり場>は近くに配置されている者とのコミュニケーションを増幅すること, の3点が明らかになった. 平成20年度に行った研究より, オフィス空間の物理的な特徴は, 公式組織とならぶ主要な組織設計変数であることが示されたものと思われる, 従来, 組織メンバーのコミュニケーションや生産性を高めたりするには, 公式組織をどのように設計するか, という点に重点が置かれてきた. 本研究を実施することにより, オフィス空間の物理的特徴→コミュニケーション・パターン, という従来あまり注目されてこなかった関係が明らかになったものと思われる.
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